終末期の患者様の温泉旅行

※画像や文章は家族様から許可を得て掲載しています。

 令和3年3月に息子様から、終末期を迎えた父を温泉旅行に連れて行きたいとのご相談を頂戴しました。

 

プランは、大阪の病院から兵庫県の湯村温泉にお連れする道中に、親戚の家や思い出がある場所を数ヶ所立ち寄り、最後に温泉旅館でお食事と温泉に浸かっていただき、1泊する行程でした。

 

弊社はまず、本人様のご状態の確認をさせて頂きたく、ご入院されている病院まで足を運び、ご家族とお会いし担当のソーシャルワーカーや看護師に詳しいご状態や注意事項等聞き取りし、リフト付きの車両と救急救命士2名での人選をさせて頂きました。

 

 

前日まで息子様とメールで今のご状態や行先の追加等のやりとりをし、今回は合計8か所に寄ってから湯村温泉に向かうこととなりました。

お父様が温泉に入浴することが一番の楽しみにしているとお聞きし、弊社も最後の旅行になるかもしれないとの思いがあり、失敗がないよう搬送ルートの確認や搬送車両の準備を着々と進めて参りました。

行程

① 出発

当日は午前9時に病院へお迎えに行き、当日のご状態を病院看護師から聴取し、リクライニング車椅子に乗車して頂き出発いたしました。

ご状態は良く、車内でも色々とお話をしながらの走行となりました。

② 道中

立ち寄る場所が計8か所ありましたので、1ヶ所に留まる時間が20~30分程度の少ない時間になりましたが、久しぶりのご親戚の再会にお話しされているお姿は、とても嬉しそうでした。少しお疲れもあったとは思われますが、終始穏やかにされてまして、午後5時ごろに無事旅館に到着いたしました。

③ 旅館にて

旅館では今回一番楽しみにされていた温泉入浴を弊社スタッフ2名とご家族様に洗体のお手伝いを頂きながら、入浴を行いました。

個室での入浴でしたが、浴槽に浸かって頂くのに、頭側に1名と足側に1名でお身体ごと持ち上げ移動し、浴槽に浸かってもらいました。

浸かった瞬間の「あぁ気持ちいい」の言葉は今でもスタッフの心に残っています。


息子様からのメール

 先日、父ともにお世話になった、 3月19日から20日にかけて湯村温泉 井づつやさんへ旅行へ連れて行ってくださいまして、本当にありがとうございました。

 

実は、帰ってからちょうど1週間後の、3月27日(土)12時28分に父は永眠しました。通夜、葬儀は家族のみで行いました。

本当は西日本民間救急さまには直接御礼を申し上げたいのですが、ここに僕自身の感じたことを述べさせていただこうと思います。

 

今思うと、1週間前に家族全員で父の希望してた旅行に行けたことが、本当に不思議に思えて奇跡のような日々だったなと感じます。 最初に旅行の打ち合わせをしたときは、入院して間もなくで、まだ自分のことはある程度できるかなぁと思っていました。

 

しかし、日が経つにつれ、立って歩くことも、座ることも、体をささえることも出来なくなっており、旅行に本当に行けるか 不安に思うこともありました。 父は旅行が近づくにつれ、カレンダーに一日ずつ×印をつけていき、旅行の1週間前からは旅行中に便をもよおしては迷惑がかかると言い 自身で浣腸の計画も立てていました。

 

当初の旅程から、どこで休憩するか、何を家族が食べるかなど全部父自身が計画し、僕に伝えてきました。

時間の制約もあったので、一つ一つの場所には短時間ではありましたが、当日、親戚に顔をみせることができ喜んでおりました。

 

旅館につき、温泉につかったときの、一言が今でも鮮明に思い出せます。本当に気持ちよさそうにして喜んでおりました。

林さん、高橋さん両人の力強いサポートがなければ、家族だけでは父を湯船につけることも、あげることも出来なかったです。

食事の際には家族全員で食卓を囲み、父も久しぶりに日本酒を1杯飲んでいました。入院してからはずっと絶食でしたが、 蟹や汁物など家族の制止を振り切って好きに食べていました。

 

翌日の朝は足湯だけでもと思い、部屋の露天風呂に車椅子で移動させ足湯につけました。寒がりの父でしたが足湯で体が温まった様子でした。 出発の際にも、林さん、高橋さんの両人に部屋にきていただかなければ、父を車椅子へ移動させれなかったですし、服を着せて整えることも 出来ませんでした。

 

帰りに提案していただいた西紀SAではソフトクリームも食べたようで、本当にこの旅行は父だけでなく家族みんなが喜ぶ旅行になりました。今まで、家族旅行は何回も行きましたが、これほどみんなで楽しかったなぁ、良かったなぁと思えた旅行もないと思います。

父は、帰ってから師長さんに、先生には内緒でこっそりソフトクリームや色んなものを食べたことを、とても嬉しそうに報告していたようです。

 

火曜日頃から呼吸症状が悪化し、鎮静・鎮痛薬を開始し、最後は旅行に行った家族全員が見守るなか、土曜日に静かに息を引き取りました。

この旅行は、父が希望していたものでもありますが、家族全員へ父の死に対する受容を促すための父なりの気遣いだったのかなと思います。

西日本民間救急の皆様には多大なご迷惑をおかけしながらの旅行でしたが、本当に家族一同感謝しております。

この旅行がないまま他界していれば、きっと後悔していたと思いますし、家族みんな父が亡くなった後も 旅行に行けてよかったねと幾度となく話していました。

 

本当にありがとうございました。またいつかお会いできるのを楽しみにしております。

従事させて頂いたスタッフより

今回の旅行プランに従事させて頂き、温泉での「あぁ気持ちいい」とおっしゃられた言葉や帰りの休憩所でのご本人様と車中で会話させて頂いたときに「みんなで来れて良かった」と話されたのを聞き、私自身の胸が熱くなり、普段何気なく行っていることや、家族の存在がどれだけ有難いことで、一番大切なことであることをこの旅行で痛感いたしました。

この旅行に携われたこと本当に感謝しております。

ありがとうございました。

心からご冥福をお祈りします。

 

救急救命士 林・高橋

スタッフ一同